治療不可能な恋をした

(逢坂くんは、何回私をドキドキさせれば気が済むんだろう)

理人の視線から逃れるように、梨乃はあわててショーケースへ視線を戻す。

だけど、どれを見てもケーキの名前なんて頭に入ってこない。目に映るのはガラスにうっすら映った自分の赤く染まった頬と、その隣で愛おしそうに微笑む理人の横顔だけ。

ますます思考がまとまらなくなって、梨乃はとにかく目の前のケーキに集中しようと、ガラス越しにずらりと並ぶスイーツをひとつひとつ見つめていく。

(逢坂くんの分も、か……)

そんな理人の言葉を思い出して、また鼓動が跳ねた。

「……じゃあ、これ。白桃のタルト」

みずみずしい白桃のスライスが花のように並び、生クリームとサクサクのタルト生地が組み合わされた、夏限定の一品。梨乃の好みに近いけれど、理人の反応を気にしてしまうあたり、選んだ理由はそれだけじゃない。

「へえ、いいね。見た目も涼しそう」

横からの声に、不意に肩が重なる。

「もういっこはどれにする?」

「えと、じ…じゃあ……」

肩に触れる熱を感じながら、梨乃はもう一つ、理人に似合いそうなケーキを探す。けれど、気づけば選んでいたのは、自分がときめいてしまった一皿だった。

「……この、チョコとベリーのケーキで」

艶やかなガナッシュに覆われたビターチョコのムース。その上には甘酸っぱいラズベリーとブルーベリーが贅沢に乗っていて、濃厚と爽やかが共存した、見た目にも印象的な一品。

「……逢坂くん、こういうのも、好き?」

理人が覗き込むより早く、恥ずかしさから少しだけ目を揺らしてしまう。


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