治療不可能な恋をした
「梨乃は俺に“あーん”してくれないの?」
「しません!」
即答すると、理人はくすっと笑って、首をかしげる。
「そりゃ残念」
思いのほかあっさり引かれたことに、逆に梨乃の心拍数は落ち着くどころか高まっていくばかりだった。
(こっちはこんなに恥ずかしいのに……どうしてそんなに余裕そうなの……!)
胸の奥をごちゃごちゃにかき乱されながらも、ぎこちなく視線をケーキへと戻す。
「……あ、あんまりのんびりしてると……公演、始まっちゃうよ……」
やや早口になった声に、理人がふっと優しく目を細めた。
「ん。そうだな。デートはまだ始まったばっかだし、焦ることないよな」
その穏やかな声に、また胸がきゅうっとなる。
(始まったばっかって……今でもいっぱいいっぱいなのに……)
紅茶に口をつけ、そっとひと息。
落ち着け、落ち着けと心の中で自分に言い聞かせながら、梨乃も静かにケーキにフォークを入れた。
ふたりの間に流れる、なんとも言えない甘い沈黙。
それはケーキの味よりも深く、梨乃の心にそっと溶けていった。