治療不可能な恋をした
ケーキを食べ終えたあと、そのまま劇場へと向かい、予約していた舞台を観た。
演目は、魔法に囚われた王国の若き姫が、禁じられた魔女の力と秘密の恋に翻弄されながらも運命を切り拓いていく恋愛ファンタジーだった。甘く儚いロマンスが幻想的な舞台美術と音楽に彩られ、観る者の胸をそっと温めてくれる物語だった。
終演後、劇場を出たあとの空気は夏の夜にしてはやけに涼しくて気持ちがよかった。
「逢坂くん……劇、どうだった?」
言葉にしながら、胸の奥が小さくざわめく。
数日前、デートに誘われたとき「行きたいところは?」と尋ねられ、ちょうど気になっていたこの公演を提案した。せっかくならと誘ったものの、彼が本当に楽しめたか――そんな不安が声色に滲む。
「すげー良かった。思ってた以上に引き込まれた」
「ほんと?」
「ああ。特に演出がすごかった。クライマックスのあの光の使い方とか、舞台ってあんなことできんのな」
「う、うん。あそこのシーン、本当に綺麗だったよね」
「なんか、舞台ってもっと堅苦しいイメージあったけど全然違ったわ。世界観もすっと入ってきたし」
理人の素直な感想に、梨乃の胸がふわりと温かくなる。
「逢坂くんも楽しんでくれてよかった。今日は付き合ってくれてありがとう」
「いや、こっちこそ。一緒に観れて楽しかったよ」
笑顔を交わし、劇場前の広場をゆっくりと歩き出す。涼しい夜風が、さっきまでの余韻をそっと撫でていった。