治療不可能な恋をした
「……なあ。これから、どうする?」
ぽつりと、理人が言った。なんでもない風を装っているけれど、その声には、どこか未練のようなものが滲んでいた。
「……うん。もう夜だし……明日、仕事だし……」
梨乃もまた、はっきりとは言えずに言葉を濁す。
「……そう、だよな……」
理人の返事も歯切れが悪くて、名残惜しさが滲んでいた。
ふたりの間に、静かな沈黙が落ちる。
駅へ向かって並んで歩き出すと、歩調が自然と合っていることに気づく。さっきまでの高揚感が、少しずつ静かに沈んでいくようだった。
自分の口から「明日仕事だし」なんて言っておいて、じゃあさっさと帰れるのかと言われれば──答えは違う。
足は前に進んでいるのに、心だけはそこに留まろうとしている。
(……ほんとは、もっと一緒にいたい)
そんな気持ちを打ち明ける勇気はなくて、ただ歩幅に、速度に、さりげない未練を滲ませてしまう。
ふと、梨乃の指先に、理人の手がかすかに触れた。
(あ……)
偶然かと思ったけれど、理人の手は少しだけ動いて、そっと梨乃の指に触れたまま離れない。
梨乃もまた、そのまま指を重ねた。指先だけを頼りに、ゆっくりと静かに繋がっていく。