治療不可能な恋をした
「……梨乃ってさ、いつから演劇好きなの?」
横を歩く理人が、ふいにそんなことを言った。
「え、えっと……けっこう前からかな」
梨乃は少し照れたように笑って、理人を見上げる。
「母が好きで、小さい頃からよく家族で観に行ってたの。ミュージカルとか、お芝居とか。それに……」
一瞬、言葉が喉で止まった。
舞台は梨乃にとって、ただの娯楽じゃない。家族と過ごす日々の象徴であり、大切な人と楽しさを分かち合いたい特別な場所。
だから今回、理人に声をかけたときも、そんな大事な時間を彼と共有したいと思った。
「……両親の最初のデートも観劇だったって、聞いたから……ずっと憧れてて……」
言葉と同時に、頬が熱を帯びる。けれど理人は、なんとも言えない優しい笑みを浮かべた。
「……なんか、いいな。そういうの」
「え?」
「梨乃ってさ、他人とすげえ線引くタイプだろ?だから……大切な家族の思い出の中に、ちょっとでも触れられた気がするっていうか。そこに俺を入れてもらえるの、嬉しいなって」
思わず足元に視線を落とす。くすぐったい言葉が、胸の奥にやさしく染みていく。
梨乃は立ち止まらず顔も上げないまま、そっと口を開いた。
「……逢坂くんは……」
一拍置いて、声が少しだけ柔らかくなる。