治療不可能な恋をした

約束の日曜の正午前。
チャイムの音が部屋に響くと、理人はすぐに玄関へ向かった。

ドアを開けた瞬間、少し蒸し暑い外気と一緒に、梨乃の姿が目に飛び込んでくる。

髪は軽くまとめられ、涼しげなノースリーブブラウスに、リネンのワイドパンツ。職場で見る白衣姿とはまるで違う、陽射しを受けてやわらかく輝く、休日ならではの軽やかな装い。

梨乃と目が合った瞬間、理人は言葉より先に身体を動かしていた。玄関の敷居の外にいた梨乃の手を取り、そのまま腕の中に引き寄せる。

「わ、ちょっ……」

驚きに声を上げかけた梨乃の背に、理人の片腕が回る。もう片方の手は後頭部に添えられ、まとめられた髪越しにほのかな熱を感じる。

外の空気で熱を帯びた身体が、抱き寄せられるうちに少しずつ落ち着いていく。

梨乃は一瞬戸惑いを見せたが、やがて抵抗をやめ、理人の胸元に頬を預けた。

「……やっとふたりで会えた」

低く落ちた声が耳元に届き、梨乃の肩が小さく跳ねる。昨日は会えなかった分、抱擁にはわずかに切なさが混じっていた。

しばらくそうしてから、理人は名残惜しそうに腕を緩めた。
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