治療不可能な恋をした
「暑かっただろ。ごめんな、こんな中歩かせて」
「う、ううん。家で待っててってお願いしたのは私だもん」
ほんの少し乱れた髪を直すように、梨乃が髪を耳にかける。
何気ないその仕草すら、理人の目には妙に愛らしく映った。指先の細やかな動きに、また少し、部屋の温度が上がった気がした。
「……ありがとな。部屋涼しくしといたから、入って」
そう声をかけながら、理人は玄関からリビングへと案内する。エアコンの涼やかな風が頬を撫で、外気の熱をやわらげていく。
梨乃は「ありがとう」と小さく微笑み、靴を脱いでスリッパに足を滑り込ませた。
「逢坂くん。これ、お土産」
差し出されたのは、小ぶりな箱に入った色とりどりのゼリー。透明なカップの中に、カットされたフルーツや小花が閉じ込められており、涼しげで華やかな印象を放っている。
「駅で見つけたの。逢坂くんと一緒に食べようと思って」
理人は受け取りながら、目元をやわらかく緩めた。
「……嬉しいよ。さんきゅ」
手土産なんていう、まだ少しぎこちないやり取りも、理人にとってはむしろ愛おしい。その初々しさが胸をくすぐり、気づけば衝動に背中を押されていた。
「……っ」
梨乃が目を瞬かせるより先に、理人の手がそっと彼女の頬に添えられ、頭へ短く、やさしいキスが落ちる。
「!?な、な……っ!」
一瞬で頬から耳まで赤く染まり、視線を泳がせる梨乃。その反応がまた、理人の胸を温めた。
「可愛いなって思ったから、つい。ダメだった?」
笑顔のままでそう聞くと、からかわれたと思ったのか梨乃は小さく唇を尖らせながら、箱を押し付けてきた。