治療不可能な恋をした
やがて、震える手がそっと重ねられる。
理人の肩がぴくりと揺れ、思わず顔を上げる。視界に飛び込んできたのは、涙を浮かべて目尻を赤く染めた梨乃の顔だった。
「逢坂くん、私……」
それでも、その瞳はまっすぐに理人を捉えている。
「ちゃんと話さなくてごめんなさい。……でも、でもね」
かすれた声に、震える息。それでも決して逸れない視線は、必死そのものだった。
「私が恋したのも……好きなのも、本当に逢坂くんだけ、なの……」
理人はその言葉に黙って耳を傾け、ゆっくりと息を吐いた。
重ねられた手は熱い。こんなふうに梨乃から好きだと言葉にされるのは珍しく、理人は次第に絆されていくのを認めるしかなかった。
(……そんな顔で、そんな声出されたら、もう何も言えねぇじゃん)
梨乃に悪意や下心があったなんて、初めから思ってなんかない。
それでも、ほんの些細なことで嫉妬してしまうし、怒っていても梨乃からの“好き”の一言で簡単に溶けてしまう。──結局は惚れた弱みには勝てないのだと、観念するしかなかった。
「……ほんとにそう思ってる?」
「……うん」
「じゃあさ、いい加減名前で呼んでくんねぇ?」
「えっ?」
梨乃が驚いたように目を丸くする。
「その幼馴染のことは名前で呼んでんのに、恋人の俺が呼んでもらえねぇのはおかしいだろ」
薄く笑みを含ませながら続ける。
「……“理人”って可愛く呼んでくれたら、機嫌、なおるかもよ」
「……っ、え、えと……」
梨乃は視線を彷徨わせ、頬に赤みを差す。理人は視線を逸らさず、その口元が動くのをただ待った。
ためらいながらも、梨乃はゆっくりと、小さく口を開く。
「………り…理人…?」