治療不可能な恋をした
ひどく恥ずかしそうに、それでも確かに名前を呼んだ。
その瞬間、理人の胸の奥にあった刺々しさがすっと溶け、口元が自然と緩む。張り詰めていた空気が、ふわりと解けていくのを感じた。
理人はそっと梨乃を抱き寄せ、胸の中に納める。長く深く息を吐きながら、肩の力を抜いた。
「お前……ほんっとズルいわ……」
「え……」
「すっげえむかついてたのに、今ので全部吹っ飛んだ」
その言葉とともにさっきまでの険しい表情はすっかり消え、梨乃にだけ向ける柔らかな笑みが戻っていた。目元も口元も、甘くて優しいいつもの理人の表情だった。
「器の小さい男でごめんな。その……怖がらせるつもりは、なかったんだ」
苦い顔で言いながら梨乃の頬に手を添え、赤みの残る目元を指先でそっと拭った。濡れた睫毛を気遣うように撫で、安心させるように微笑む。
梨乃は頬に触れる温かさに導かれるように理人を見上げ、潤んだ瞳には安堵を浮かべていた。
「……大丈夫。逆の立場なら…私だって、理人が女の子の幼馴染と仲良くしてたら……不安になるだろうから」
「……そっか」
梨乃の声は小さく、それでも確かな思いやりを含んでいた。その響きが理人の胸をまたやわらかく満たしていく。
「なあ。さっきのすげえ可愛かったからさ、もう一回名前呼んでよ。今度はキスもつけて」
「え!?む、むり……!」
「……ははっ、やっぱむりかぁ」
慌てふためき首を振る梨乃に、理人は軽く笑い、梨乃の肩に頭を落とす。