治療不可能な恋をした
. . 𖥧 𖥧 𖧧


理人たちの勤める大学病院の心臓外科では、毎週水曜の午前中は比較的計画的な手術が集中する時間帯に決まっていた。

理人もそのスケジュールに沿って、朝から集中力を高め、執刀に臨む。

その日の手術は順調に進んでいた。理人は執刀台の前で微細な心拍の変化や出血量に注意を払い、集中を途切れさせないよう心を研ぎ澄ます。助手たちの手元やモニターを確認し、わずかな呼吸の乱れにも反応した。

手術が無事に終わると、理人は執刀チームに向かって小さく呟いた。

「……では、あとはお願いします」

肩の力を抜き、手洗い場へ向かう。手のひらに残る汗と緊張を拭きながら時計を見ると、ちょうど昼前──ほんの少しだけ、自分の時間ができた瞬間だった。

深く息をつき、目を閉じて手術の余韻をかみしめる。術中の緊張や術後の安堵。それに混ざって、頭の片隅にふと浮かぶ梨乃の顔。

(梨乃は、もう昼食ったかな……)

ぼんやり考えながら着替えを済ませてデスクに戻った理人は、ふとスマホに手を伸ばした。まだなら軽く声をかけてみようか──ほんの少しだけ期待を込めて画面に触れる。

指先が画面に触れ、何気なくトークアプリを開くと、そこに梨乃からのメッセージが届いていた。
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