治療不可能な恋をした

理人が食堂に入ると、奥のテーブルで梨乃とスーツ姿の男が向かい合って座っているのが目に入った。

歩み寄ろうと一歩踏み出した瞬間、梨乃の目と自分の目がふと合う。

彼女の瞳が一瞬にしてぱっと輝き、頬にうっすら色が差す。周囲のざわめきや食堂の空気は自然と二人の世界から遠ざかり、理人の視線はその表情に吸い寄せられるように固定された。

「逢坂先生」

梨乃がにこりと微笑み、小さく手を振りながら声をかけてくる。その声に理人は思わず頬を緩ませ、ゆっくりと彼女の方へ歩みを進めた。

「メッセージに気付くのが遅くなった。悪い」

「ううん。来てくれてありがとう」

梨乃は席を立ち、落ち着いた口調で幼馴染らしき男に手のひらを向ける。

「友達の佐倉(さくら)絢斗。仕事でここに来てたみたいで、一緒にランチでもって声かけてくれたの」

「……へえ」

理人は表面上は軽い微笑みを見せるが、その笑顔はどこかぎこちなく、明らかに作られたものだった。

心の奥では、絢斗という存在に対する警戒心と苛立ちがざわつき、自然と身体に力が入る。
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