治療不可能な恋をした
「絢斗。こちらが心外の逢坂理人先生だよ」
梨乃が紹介を終えると、絢斗はさわやかな笑顔でスッと立ち上がり、軽く会釈をする。
「初めまして!佐倉と申します。東邦製薬でMRをやってます。今日は別の科にお邪魔していたんですけど、せっかくだからと思って梨乃を昼に誘っちゃいました!」
底抜けに明るい声で差し出された手には、名刺が握られていた。理人はそれを受け取り、目を落とす。そこには「東邦製薬 営業部」と印字されており、名乗り通りの肩書きが並んでいた。
「……どうも」
小さく言葉を返しながら、表向きは穏やかな笑みを浮かべる。しかし目の奥では無意識に相手を値踏みするような視線が光っていた。
絢斗のさりげない振る舞い、言葉の端々に潜む親しさの度合い、そして梨乃との距離感──すべてを瞬時に把握し、無言の警戒心を張り巡らせている。
「……それにしても、わざわざ昼に誘うなんて、"うちの仁科"とよっぽど仲がいいんですね」
口元には貼り付けた笑み。外から見ればただの軽口にしか聞こえない。だがその裏では、理人の眼差しがわずかに鋭さを帯びていた。
心の奥底では警戒心が渦を巻き、梨乃にこれ以上近づけまいとする無言の牽制が、笑顔の奥に静かに潜んでいた。