治療不可能な恋をした
その話をしたひと月後。
梨乃の忙しさもピークを越え、依然として慌ただしさは残るものの、少しずつ落ち着きを取り戻していた。患者の入院数も減り始め、張りつめていた診察室の空気もどこか和らいでいる。
その夜は、理人に誘われた大学同期との同窓会の日だった。軽い緊張と期待を胸に、梨乃は会場へと向かっていた。
理人の家で待ち合わせ、一緒に乗ったタクシーで辿り着いたのは、都内の路地裏にあるアットホームな和食バル。
木の温もりを感じる引き戸を開けると、中からは明るい笑い声やグラスのぶつかる音が漏れてくる。
「……」
梨乃は一瞬、緊張で足がすくむような心地になったが、隣に立つ理人の存在にふっと安堵を覚える。
「梨乃、行こう」
理人のささやかな声に背中を押されるように、梨乃は深く息を吸い込み、引き戸に手をかけた。
──その瞬間。
にぎやかな笑い声が一拍だけ止まり、梨乃と理人が並んで姿を現すと、既に席についていた同期たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
「……あー!逢坂じゃん〜!」