治療不可能な恋をした

(幻滅なんて、そんなこと……ぜったいにあり得ない)

心の中で叫ぶ。

彼はいつも堂々としていて、周囲に人が集まる中心で、どんなことも器用にこなしてしまう。自分にはないものをたくさん持っていて、だからこそずっと眩しい存在だった。

だけど今──そんな理人が、他の誰でもなく自分のことにだけ、不安をさらけ出している。

その事実に気づいた瞬間、胸の奥が切なくも温かく熱を帯びていく。

「そんなことない」と慌てて否定しようと口を開いた梨乃の言葉を、理人はかぶせるように遮った。

「けど、たとえ梨乃にどう思われても……俺の気持ちだけは、これからも変わんねぇから」

真っすぐな眼差しが梨乃を射抜く。意思の強さと、揺るぎない想いがそこにあった。

周囲に一瞬だけ沈黙が落ちる。ざわついた空気は、すぐに呆れた笑いと祝福の声に変わった。

「わー……あっま。ごちそーさまでーす」

「胸焼けしそうなんだけど。ちょっとぉ、誰か水ちょうだーい」

「もー、結婚式には呼んでよ~?」

冷やかし混じりの声が次々と飛び、やがて笑いが広がる。場のざわめきが、祝福のように二人を包んでいく。

梨乃は顔を真っ赤に染め、言葉を失っていた。

否定する余地も、返す言葉も、今の彼の言葉を前にしては見つからない。ただ胸の奥がどうしようもなく熱く、全身が幸福感に満たされていく。

理人はそんな梨乃の隣に静かに立ち続け、腰へと回した手を離さなかった。彼の自分へのまっすぐな想いが、そこにあった。

会場は笑いと歓声で賑やかさを増していく。
けれど梨乃の世界には、理人の体温と視線だけがいつまでも残っていた。

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