治療不可能な恋をした
同窓会の最後の挨拶が終わると、会場内のざわめきは少しずつ落ち着き、談笑していた同期たちも出口へと向かい始めた。
梨乃も荷物をまとめていると、会計を済ませ戻ってきた理人が部屋の入口に立った。
「お待たせ。梨乃も出れる?」
「あ、うん。今行くね」
理人から低く声をかけられ、梨乃はうなずいてゆっくり立ち上がる。
店の扉を開けると、夜の街灯に照らされた理人の横顔が目に入り、肩の力が少しだけ抜ける。
店内のお酒や食事の香りが遠ざかり、代わりに夏の夜特有のほのかに湿った草木やアスファルトの匂いが鼻をくすぐった。空気が少し涼しく、心地よく肌に触れる。
理人が扉を押さえ敷居を出るそのタイミングで、落ち着いた声が前から響いた。
「逢坂」
声をかけてきたのは、黒川という同級生だった。
学生時代から理人とよく行動を共にしており、今日も何度か会話を交わしていたため、よく覚えていた。
黒川はポケットに手を入れ、少しだけ口元を緩めて落ち着いた笑みを浮かべながら、理人に静かに声をかけた。
「お前、二次会どうする? 仁科さんも、時間大丈夫なら、ぜひ」
梨乃は軽く会釈して微笑んだ。誘われたこと自体は嬉しかったが、すでに少し酔っていて、皆に迷惑をかけたくなかった。
「ありがとう。せっかくだけど、酔っちゃったし私は帰るね」