治療不可能な恋をした
「……梨乃からそんなこと言ってくれる日が来るなんて……」
低く呟いた理人の声は、耳元に落ちるように響く。抱きしめる腕に力を込めながら、唇の端をわずかに吊り上げた。
「今ここでがっつかなかった自分を、褒めてやりてぇよ」
梨乃は胸に広がる鼓動を抑えきれず、ぎこちなく理人の服の裾を握った。
「……じゃあ…もっと一緒にいても、いい?」
たった一言なのに、声が震える。理人はその震えごと抱きしめながら、深く息を吐いた。
「ほんと可愛すぎ……勘弁して」
耳元で熱を帯びた声が落ちてきて、梨乃の頬はますます赤くなる。それでも逃げようとは思えず、むしろ彼の温もりに溶けていくようだった。
やがて理人は抱きしめる腕をほんの少し緩め、梨乃の顔を覗き込む。
「……なあ、梨乃。お前、明日仕事休みだよな?」
唐突な問いに、梨乃はきょとんと目を瞬かせた。
「え……うん、休みだけど……」
答える間もなく、理人は片手をポケットに突っ込み、スマホを取り出す。画面を操作する指先はやけに早く、その横顔は真剣そのものだった。
「理人…?なにしてるの?」
問いかけに答えることなく向けられた笑みは、どこか楽しげに見えた。
梨乃が戸惑っているうちに、彼は当然のように手を繋ぎ直し、足早に歩き出す。
その先に見えてきたのは、煌びやかな明かりを放つホテル街。状況を理解した瞬間、梨乃の心臓が跳ね、足取りがふらつく。
「えっ、ちょ……!」
小さく抗議する声も、ぎゅっと強く握られた手に呑み込まれる。
「あんなこと言われて、帰す気なんかねぇから」
低く囁かれた言葉に、胸の奥まで熱が広がっていった。