治療不可能な恋をした
翌朝。
梨乃は外来受付へ、患者の書類を届けに向かっていた。
階段をひとつひとつゆっくり降りながら、昨夜の姉の言葉が胸の奥でよぎる。
(……同棲、か)
言うべきか、それともまだ早すぎるのか。
考えるほどに答えは見つからず、心の奥で曖昧なざわめきが広がっていく。踏み出すにはまだ軽すぎる気もするし、黙っているには心が落ち着かない。
(だめだ、今は仕事中。切り替えなきゃ)
深呼吸をひとつして受付に到着すると、落ち着いた声で声をかける。
「おはようございます。今少し大丈夫でしょうか?」
近くにいた女性スタッフが梨乃の呼びかけに反応し、すぐに顔を上げた。
「ああ、仁科先生。おはようございます。どうされましたか?」
「患者さんからの書類依頼です。診断書と意見書になりますので確認してもらえますか?」
梨乃が差し出した封筒をスタッフが開き、仕分けながら確認していく。
「こちらは学校提出用、あとこちらは保険会社用ですね。ご家族からの依頼が一部まだ未着なので、届き次第またお渡しします」
「助かります。では、必要書類の確認が取れたら教えてください」
スタッフに軽く頭を下げ、梨乃はひと息つく。
それから医局に戻るため元来た廊下を進もうとした、その時だった。