治療不可能な恋をした

午前の業務が一区切りつき、昼休みに入って少し経った頃。梨乃は院内の片隅のベンチに腰を下ろしていた。

院内のコンビニで買ったおにぎりを手にしながら、ただじっと手元を見つめる。

「ふう……」

誰の目も気にせず、心を落ち着けたくてここに来た。けれどおにぎりは一向に口へ運ばれない。握りしめたまま、ただため息が漏れる。

そうしてぼんやりとしたまま、切り口を指先で遊ばせていた時だった。

「ここにいたのか」

背後から聞こえた声に、梨乃は思わず肩を跳ねさせ振り向いた。見ると理人が少し息を切らしながら、真っ直ぐこちらに向かってきていた。

「……理人?」

「ん。医局にも食堂にもいないから、すげえ探した」

慌てて視線を逸らす梨乃に、理人は自然な笑みを浮かべて、当たり前のように肩が触れ合う距離で隣に腰を下ろす。

「探したって……どうして?」

思わずこぼれた問いに、理人は少し目を細めた。

「今朝、様子おかしかっただろ。なんか気になることでもあったのかなって」

「……」

(気になること……)

理人を責める権利なんてない。けれど言葉にすれば、きっと責めるような響きになってしまう。

そう思うと何も言えなくて、胸の奥に溜まったざわめきだけがますます重く膨らんでいく。

そんな梨乃の迷いを見透かすように、理人はほんの少し顔を寄せた。声のトーンを落とし、梨乃だけに見せる、穏やかな眼差しを向ける。

「……なあ、梨乃」

一拍置いて、ゆっくりと続けた。

「お前に関しては、俺、とことんポンコツになるからさ……言いたいことがあるなら、隠さず言ってほしいんだ」

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