治療不可能な恋をした
その言葉に、梨乃は少しだけ心を開く。胸の奥で、固く縛りつけていた感情がじわりと揺らいだ。
息を飲み込み、意を決して小さな声を漏らした。
「なんで……」
「ん?」
一呼吸置き、声に少し震えを混ぜながらも告げる。
「……なんでああやって、誰とでも距離近くするの?」
できるだけ感情を抑えた声で言った。こんな言い方にするつもりなんてなかったはずなのに、あっさりとこぼれてしまった本音に、自分でも戸惑う。
「え?」
理人はしばし言葉を選ぶように言い淀む。それから腕を組んだり、脚を組み替えたりと、言葉を探すように落ち着かない仕草を見せる。
「……あのさ、もしかして、だけどさ」
「………」
「……それ、嫉妬?」
少し沈黙し、梨乃は息を震わせ、消え入りそうな声で認めた。
「……彼女なんだから……嫉妬くらい、するよ」
理人の彼女は私なのに──そんな本音さえ素直に言えない自分に、嫌気が差す。
しばらくの沈黙の後、理人はふ、と笑う。梨乃が怪訝な顔を向けると、彼は少し茶目っ気を交えて揶揄うように言った。
「ようやく嫉妬する気になってくれたんだ?」
そしてさらに小さく、嬉しさを隠しきれない声音で付け加える。
「俺としても、恋人がいるって大っぴらに言えた方が、余計な声かけられなくて助かるんだけど」
そしてわずかに口元を綻ばせ、目を細めて囁くように言った。
「……仁科梨乃っていう、この上なく可愛い恋人がいるって、言いふらしていいの?」