治療不可能な恋をした
「はじめまして。梨乃の母の仁科日菜子です。わざわざご挨拶にきてくれて、ありがとうございます」
母は嬉しそうに目を細め、二人を中へ招き入れた。
玄関に立つと、理人は手にしていた紙袋をすっと持ち上げ、両手で母に差し出した。
「つまらないものですが……お口に合えば嬉しいです」
母が小さく声を上げながら、紙袋をそっと受け取った。
「立派なお菓子ですね。お気遣いありがとうございます」
梨乃も袋の中をちらりと覗く。有名菓子店の包みが整然と収められており、心がこもった贈り物だとすぐに分かった。
「せっかくだから、お茶請けにいただきましょう。どうぞ、上がってください」
穏やかで落ち着いた口調に、梨乃は緊張しながら小さく頷き、理人を誘導しつつリビングへ足を踏み入れた。
リビングのテーブルには人数分のカップが並び、視線をずらすと父がのんびりとソファに腰掛けている。
「湊くん。梨乃達が来てくれたよ」
「ああ」
ソファから立ち上がった父は、落ち着いた笑みを浮かべながら二人に視線を向ける。
「初めまして。梨乃の父の湊です」
穏やかな声色に合わせ、理人も背筋を伸ばして頭を下げる。
「逢坂理人と申します。本日はご挨拶の機会をいただき、ありがとうございます」
真っ直ぐに礼を尽くす理人の所作に、湊の目元がわずかに和らぐ。
「こちらこそ、忙しいだろうにわざわざありがとう。さ、どうぞ座って」