治療不可能な恋をした

父は苦笑を浮かべ、少し茶目っ気を交えて続けた。

「だからあの頃に妻と出会っていたら、間違いなく焦って、必死になって彼女の家に押しかけていたでしょうね。まあ、再会してからも似たようなことしてましたけど」

その言葉に、母が軽く父の肘をつつきながら叱った。

「湊くん」

母に睨まれた父は笑いながら肩をすくめ、昔を懐かしむように目を細めた。

「だから、こうして一緒に暮らすことを選んだ二人の気持ち、よく分かるんですよ」

理人は背筋を伸ばしたまま、落ち着いた声でゆっくりと口を開いた。

「ありがとうございます。湊さんのおっしゃる通りで……梨乃さんと過ごす時間は、僕にとってとても大切なものです。ですので、これからはもっと一緒の時間を過ごし、お互いを支え合いながら日々を過ごしていきたいと考えています。どうか、同棲のことをご理解いただければと思い、ご報告に上がりました」

父は一瞬、理人の真剣な眼差しを受け止めるようにじっと見つめたあと、ゆっくりと頷いた。

「うん……よく考えてのことなら、安心したよ。梨乃を大事にしてくれているようだし、心配はない。な?日菜」

母も柔らかく微笑みながら頷く。

「もちろん。梨乃、理人さんと仲良く、二人で助け合いながら穏やかに暮らしていってね」

「お母さん……」

胸の奥がじんわりと温かくなり、理人の真っ直ぐな言葉と、両親の柔らかな笑顔を同時に感じるだけで、心が安らいでいく。

「ふたりとも、ありがとう」

梨乃は込み上げる思いに小さく笑みをこぼす。理人と自然に目を合わせ、ふたりで笑い合う。
< 217 / 306 >

この作品をシェア

pagetop