治療不可能な恋をした
梨乃が苦笑すると、理人は首を横に振る。
「いや、俺の親も似たようなもんだから。ただうちは逆で、母親が父親を好きすぎるって感じだけど」
「へえ、そうなんだ」
二人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。やがて短い沈黙のあと、理人が少し照れくさそうに口を開いた。
「よければ……会ってみないか?」
「え?」
理人は微笑を浮かべながらも、瞳は真剣で。
「同棲だけなら梨乃の家族に挨拶すればそれでよかったと思う。でも……俺はそれだけで終わらすつもりはないから」
「……っ」
(同棲だけじゃない。それって、まさか……)
理人の言葉の続きを勝手に想像してしまい、顔の熱を抑えきれない。
胸の奥がぎゅっと締めつけられ、梨乃は思わず胸元の服を握る。自分一人で先走っているのは分かっているのに、頭の中では「もしかして」の言葉がぐるぐると駆け巡っていた。
「梨乃さえ良ければ──うちの親にも会ってほしい」
真っ直ぐな視線に射抜かれ、梨乃は少し戸惑いながらも、自然に笑みを浮かべて頷いた。
「……うん。わかった」
その返事に、理人の表情が柔らかく緩む。張り詰めていた空気がほどけ、肩の力が抜けたように見えた。
「……じゃあ、親に話しとく。日程はまた相談させて」
そう言って差し出された手を梨乃は握る。そこには温もりと同時に、ほんのわずかな緊張の名残があり、指先は少し湿っていた。
並ぶ歩幅は自然にそろい、二人は同じ道をゆっくりと進んでいった。