治療不可能な恋をした
. . 𖥧 𖥧 𖧧


両親へ挨拶を終えそんな会話をした、数日後。

小児科のナースステーションで、梨乃は白石と並んでカルテの整理をしていた。

「仁科先生。この子なんですけど、来週に採血の予定入ってましたよね?」

白石がカルテをめくりながら確認する。

「はい。ただ時間が午後に変更になったので、ここに付箋貼っておきました」

梨乃が指で示しながら答えると、白石は「ありがとうございます」と微笑んだ。

そのまま手を進めていた白石の動きが、ふと止まる。

「そういえば、仁科先生にちょっと聞きたいことがあって」

軽く思い出したような仕草。世間話の延長のような、気取らない調子だった。

「はい?」と梨乃が首を傾げかけたその時、背後から足音が近づき、よく知った声が響いた。

「仁科先生、今いいですか?」

振り返ると理人が立っていた。その手には、数枚の依頼書を抱えている。

「逢坂先生?なんでしょう……あ、待ってください。今、白石先生と話をしてて……」

梨乃が一瞬ためらうと白石は軽く首を振り、穏やかな笑みを浮かべた。

「私は急ぎの要件ではないので、先にどうぞ」

「すみません、助かります」

理人が丁寧に礼を返し、依頼書を差し出した。

「循環器からの検査依頼が急ぎで入ったんです。こちらで確認してもらえますか」

「分かりました」

梨乃はいったん手を止め、理人の元に歩み寄り依頼書を一緒に覗き込んだ。
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