治療不可能な恋をした

「対象は……ああ、この子ですね。術前なら、採血と胸部X線を午後に入れておきます。それで大丈夫ですか?」

「はい、それで頼みます」

手帳にメモを取りながら確認すると、理人は軽く頷いた。

そのまま梨乃が依頼書を確認し、返そうとしたそのとき。

「それと、あともうひとつ」

こちらが反応するより早く理人はそっと耳元に顔を寄せると、ささやくように言葉を続けた。

「……例の件、再来週でオッケーだってさ」

そう告げると同時に、理人は自然に梨乃の背に手を添える。

「なっ……!」

ほんの少し触れるだけの距離なのに、体中がかっと熱くなる。

「例の件」が理人の両親への挨拶だとはすぐにわかった。けれど、人目のある場所でこんなふうにされると、恥ずかしくて仕方がない。

(ひ、人が見てるのに……!)

責めるように睨みつけるが、理人は涼しい顔を返してくるだけだった。

「………」

とはいえ、悔しいけれど、何枚も上手の理人に敵わない。小さく息をつき、悔しさをかみしめながら「……分かりました」と答える。


すると、後ろでくすっとした笑い声が聞こえた。

踵を返して理人に背を向けると、白石が笑いを堪えきれないというように顔をほころばせていた。

「……白石先生?」

怪訝な顔で問いかけると、白石は肩を揺らしながら微笑んだ。

「ふふっ……ごめんなさい。なんだか二人の温度差が面白くて、つい」
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