治療不可能な恋をした
梨乃が息を呑む間にも、車はゆっくりと敷地内へと入っていく。
石畳の広いアプローチを進み、邸宅の横に設けられた駐車スペースに車を停めると、エンジン音が静かに消えた。
急に訪れた静寂の中で、胸の鼓動だけがやけに大きく響いている気がする。理人はシートベルトを外しながら、ちらりと梨乃を見て口角を上げた。
「大丈夫。梨乃が人見知りなのは分かってるし、家族とは俺が会話するようにするから、梨乃は隣にいて笑ってくれてるだけでいいよ」
その言葉に、胸の奥がきゅっと温かくなる。
緊張しがちで初めてが苦手なことを理解して、それを否定せずに受け止めてくれる。その優しさに、張りつめていた気持ちが少し緩み、思わず頬が熱を帯びた。
けれど、それに甘えてばかりではいけない。梨乃は小さく息を整え、ぎゅっと表情を引き締める。
「……ううん。ちゃんと頑張る。私だって、理人を育ててくれたご両親と仲良くなりたいもん」
少し強がりも混じった本音のつぶやきに、理人は目尻を緩めて破顔する。
「……ありがとう」
その表情に、梨乃の胸の鼓動はますます早まっていった。
理人が助手席側に回り込み、ドアを開けて手を差し伸べる。戸惑いながらもその手を借りて車を降りると、目の前には想像以上に大きな玄関が構えていた。
門をくぐったときよりもさらに緊張が押し寄せ、梨乃は思わず深呼吸をする。
「行くか」
理人の一言に小さく頷き、二人は並んで玄関へと歩き出す。磨かれた石畳の先、立派な扉の前に立つと、理人が静かにチャイムへ手を伸ばした。