治療不可能な恋をした
チャイムの音が静かな空気を破ると、ほどなくして玄関の扉が開いた。
姿を現したのは、柔らかな色合いのエプロンを身につけた女性だった。上品な佇まいながらも、目元に浮かぶ笑みは親しげで──理人とよく似た面影を感じさせる。
「いらっしゃい、よく来てくれたわね!」
ぱっと表情を輝かせて息子を見つめ、それから梨乃へ視線を移す。目を細めて温かな笑みを深め、歓迎の気持ちを隠さずに言った。
「あなたが梨乃さんね。理人からいろいろ聞いていたから、お会いできて嬉しいわ」
にこやかな声に迎え入れられ、梨乃は思わず背筋を伸ばす。緊張で声が詰まりそうになりながらも、かろうじて微笑みを形にした。
「は、初めまして。仁科梨乃と申します。本日はよろしくお願いいたします」
深く頭を下げた瞬間、母親の目にうるんだ光が差した。
「理人が女の子を連れてくること自体初めてなのに……それがこんなに綺麗なお嬢さんだなんて……!」
感激に声を震わせながら、ふっと屈託のない笑顔を浮かべる。
「理人ったら、普段は連絡のひとつもよこさないくせに、急に同棲報告してきたかと思えば“将来を考えてる相手だ”って言うんですもの。家族みんなで、どんな方なのか楽しみにしていたのよ」
その言葉に、梨乃の頬はたちまち赤く染まった。
(将来の、相手……)
胸に手を当て、言葉の意味をかみしめながら隣に立つ理人をちらりと見上げる。彼は気まずそうに頭をかきながらも、どこか誇らしげに微笑んでいた。