治療不可能な恋をした
そのまま茉里に手を引かれるようにして玄関をくぐると、柔らかな木の香りと落ち着いた家の空気が、梨乃をふわりと包み込んだ。
「おーい、お父さーん!兄貴たち帰ってきたよ〜っ」
茉里が声をかけると、奥の居間から現れたのは、背筋こそしゃんとしているものの、どこか素朴さを漂わせる男性だった。理人と同じように背は高いが、雰囲気は正反対で、にこやかに目を細めたその顔からは人の良さがにじみ出ている。
「いらっしゃい、梨乃さん。理人くんも、おかえり」
低くあたたかな声に迎えられ、梨乃は思わず背筋を正した。けれど父の目元に浮かぶやわらかな皺が、その緊張をゆっくりと解いていく。
「初めまして……!仁科梨乃と申します」
深々と頭を下げると、父は「そんなにかしこまらなくていいよ」と朗らかに笑った。
「遠いところを来てもらってありがとう。うちは気楽な家だからね、どうぞゆっくりしていって」
そのやわらかな声音に、梨乃は胸の奥のこわばりが溶けていくのを感じた。
「言っただろ、気さくだって。特に親父はこの通りぽやっとしてるから、安心していいよ」
耳元で囁かれ、梨乃は思わず小さな笑顔を返す。緊張がやっとほどけていくのを自覚し、頬にほんのり熱が宿った。
そんな二人を見ていた茉里が、呆れ顔で声を上げる。
「……ちょっとぉ。隙あらばイチャつこうとすんのやめてくんない?ここ実家だよ?てか何、そのだらしない顔。兄貴ってそんなタイプだっけ」
呆れ混じりの突っ込みに、理人は軽く眉を上げてそっぽを向いた。
「うるせえな」
どっか行けとでも言うように、ひらひらと手を振る。