治療不可能な恋をした
「理人さん!」
弾んだ声がガレージの外から響く。懐かしさを含んだ明るい調子に、梨乃は一瞬きょとんとする。
姿を現したのは、一人の女性だった。
「……菜々美?」
茉里が驚いたように名を呼ぶ。
その声に反応するように、菜々美の笑顔が一瞬だけ揺らぎ、視線が梨乃のほうへと鋭く流れる。
最初こそ理人に向けて花のように笑みを咲かせていた彼女は、梨乃の姿を認めた途端、表情を引きつらせ、無表情に沈む。
そしてほんの一拍の沈黙ののち、その瞳には隠そうともしない敵意が宿った。
「理人さん。その人は……?」
だが理人は、眉を寄せたまま答えない。代わりに梨乃の手を軽く取り、落ち着かせるように声をかけた。
「……梨乃、乗って」
促されるまま助手席に身を滑り込ませる。そのとき梨乃は思わず理人へ問いかけようと口を開いたが、彼の視線が先にそれを制した。
言葉が喉の奥でつかえて戻っていく。真剣な眼差しが「ちゃんと説明する」と告げているようで、梨乃は小さく息を呑んだ。
運転席に回る途中、理人は茉里にだけ視線をやり、短く告げる。
「またあとで連絡する」
茉里がゆっくりと頷くのを確かめ、理人はそのまま車に乗り込んだ。
その間、茉里が「菜々美」と呼んだ女性に理人が視線を向けることは一度もなかった。