治療不可能な恋をした
車が住宅街を抜け、ゆるやかに幹線道路へと出ていく。
車内には、説明の言葉を待つような重い空気が漂っていた。
沈黙を破ったのは理人だった。
「……さっきの女だけど」
それは梨乃が初めて耳にする、低く冷えた声色だった。
「名前は清野菜々美。茉里の同級生だ」
「同級生……」
「ああ」
短く答えながら、ハンドルを握る手に力がこもっているのが伝わってくる。
「俺が中三のとき、一目惚れしたとか言ってそこからしつこく付きまとってきてな。最初は茉里の友達だと思って見過ごしてたんだ。でも、帰り道で待ち伏せされたり、茉里を名目に家に上がって勝手に部屋を漁られたり……ストーカーみたいなことされて、聞けば元々大して仲良くなかったのに、俺に近づくためだけに茉里に擦り寄ってたってあとで知ったんだ」
低く押し殺した声に、梨乃は背筋が冷えていく。
「最終的に、当時付き合ってた彼女にまで悪質な嫌がらせをしていたことが分かった」
「………」
「だから俺は高校から寮に入って家を出た。家が近所じゃ、避けようがなかったから」
言葉の端々から滲む嫌悪と苛立ちに、梨乃の胸は重く沈んでいく。
「……そんなことが」
小さく揺れる声で呟いた、そのとき。
車内に着信音が響き、理人はちらりとカーナビのディスプレイを確認する。
「……茉里だ」
短く呼吸を整え、ハンズフリーに切り替えて応答した。