治療不可能な恋をした
互いの吐息が触れ合う距離で、理人は目を細める。その瞳には茶化しの色も眠気の影もなく、ただ真っすぐに梨乃だけを映していた。
「……もう少ししたら、これが日常になるんだよな」
囁くような声音に、思わず目を瞬かせる。
「……日常……」
胸の奥でとくりと小さな音がした。言葉だけをなんとか押し出すと、理人がふっと唇の端を上げた。
「引っ越しの準備もだいぶ進んできただろ。そしたらこうして隣で寝て、朝キスして、送り出すのが普通になる」
淡々と告げるのに、抑えきれない嬉しさがにじむ。未来を待ちわびている気持ちが、声にも表情にもそのまま映し出されていた。
(……そんな未来まで、もうすぐなんだ…)
心臓がきゅうっと縮むほど照れくさいのに、胸の奥はじんわり温かい。
理人と同じ時間を積み重ねていく光景を思い描いただけで、自然と頬がゆるんでしまった。
彼の体温に包まれたまま、梨乃は小さく笑みをこぼす。それは、確かに「幸せ」を感じるほほ笑みだった。