治療不可能な恋をした
「あ!誤解しないでください!前が冷たかったとか怖かったとか、そういうのじゃなくて……なんていうか、前より話しやすくなった気がして」
「……」
「生意気言ってすみません。では、最終チェックお願いします!」
後輩はそう早口で言い置き、足早に去っていった。
その背を見送り、残された梨乃は書類の束をそっと撫でながら小さく息をつく。
(……雰囲気が柔らかくなった、か)
自分から何かを意識して変えた覚えはない。強いて言うなら、思い当たるのは、ただ一人の存在。
(……きっと、理人のおかげなんだろうな)
頬に浮かんだ微笑みを自分でも意識して、あわてて打ち消そうとしたそのとき。
医局長がカルテを手にゆっくりと近づいてきた。
「仁科先生、今いいかな?」
「あ、はい。もちろんです」
姿勢を正し、気持ちをきりりと引き締める。
「午前中に診察した患者なんだが、公費負担の登録状況とこちらの診療記録に相違があってね。総合受付で原本を確認して、必要なら修正してきてほしい」
「はい、わかりました」
梨乃は書類を受け取り、すぐに椅子を立ち上がる。そのまま医局を出た足は迷いなく、総合受付へと向かっていた。