治療不可能な恋をした
あの後、なんとかメッセージを送ることはできたが、手の震えはまだ収まらず、胸の奥には緊張と恐怖が渦巻いていた。
しばらくして、慌ただしい足音が響き、医局のドアが勢いよく開いた。
「お、逢坂先生?どうしたんですか?」
扉の近くにいた看護師の驚いた声が飛ぶ。しかし理人はそれには答えず、真っ直ぐに梨乃へ視線を注いでいる。
梨乃は言葉が出ず、マウスを握りしめたまま体を震わせ、理人の顔を見つめ返した。
「……仁科先生。今すぐ、お時間もらえますか」
低く落ち着いた声に、揺るがない強さが宿っている。
「……はい……」
かすれた声で答えた瞬間、理人は周囲を素早く見回し、迷いなくドアの取っ手に手をかけた。
梨乃は心細さを隠せないまま、理人の立つドアの方へと歩み寄る。理人はその様子を受け止めるように一度だけうなずき、廊下に出ると、すぐ近くの空いた診察室へと導いた。
扉が閉まった瞬間、外のざわめきがすっと遠ざかり、白い壁と無機質な机だけの小さな空間に静けさが広がる。
梨乃は息を詰めたまま立ち尽くし、理人の視線を受け止めるしかなかった。
「……メッセージ、見た」
理人の低い声が、静まり返った空間に落ちた。
その言葉だけで、梨乃の喉がきゅっと締め付けられる。先ほど浴びた敵意のこもった視線が脳裏に蘇り、背筋に冷たいものが走った。
梨乃の固くこわばった表情を見た瞬間、理人は頭を抱えて息を吐いた。苛立ちと焦りが入り混じった声で、低く呟く。
「あの女……」
梨乃は自分の腕をそっと握りしめ、震えを誤魔化した。
「あの、それから……」