治療不可能な恋をした
梨乃は医療事務の職員から聞いたことも伝えた。
菜々美が「理人の幼馴染」だと触れ回り、彼を追ってこの病院に来たと言われていること。さらにただ目が合っただけの自分を、敵意を込めて睨みつけてきたことも。
それを聞き理人は怒りを抑えることなく、大きく舌打ちをした。
「……わかった。怖がらせて、本当にごめん」
罪悪感を滲ませる理人に、梨乃はすぐに首を振った。
「理人のせいじゃ……。むしろ、ごめんね。こんなことくらいでいちいち反応しちゃって……」
「言ったろ。あの女は普通じゃない。今は何もなくても、梨乃に何をするかわからない」
理人はぎゅっと眉間に皺を寄せ、自身を落ち着かせるように深く息を吐く。視線は常に梨乃から離さず、鋭さと守る覚悟が入り混じった瞳で見つめてくる。
「……提案なんだが、こうなった以上、同棲を早めないか?」
不意に向けられた言葉に、梨乃は小さく目を見開く。
「……え、でも……」
「梨乃が心配なんだ。俺のせいで、そばにいながら何もできないなんてことにしたくない。もし、お前に何かあったらって考えただけで……耐えられない」
理人の声は穏やかだが、強い決意がはっきりと伝わる。その響きが胸に届くと、恐怖と緊張で硬くなっていた心が、少しずつほどけていく。
「……わかった……」
小さく頷いた瞬間、理人の手がそっと肩に触れた。押しつけがましさのない優しい仕草。そのぬくもりに包まれると、不思議と安心が広がっていった。
「梨乃のことは、俺が絶対に守るから」
真っ直ぐに告げられた言葉に、胸の奥が熱くなる。ようやく息を吐き出せて、強張っていた表情も少し和らいだ。
診察室の静けさの中、視線を交わすだけで通じ合うものがあると、梨乃は確かに感じていた。