治療不可能な恋をした

ある日、梨乃は出勤してロッカーを開け、いつも通り白衣に袖を通した。そしてポケットに聴診器やペンケースなどの必需品を入れようとしたとき、中で何かが指に触れた。

(なに……?)

いやな予感が胸をよぎりつつ取り出すと、見覚えのない折りたたまれた紙片があった。

恐る恐る広げると、乱暴な字体で短くも刺すような言葉が書かれていた。

〈地味女〉
〈理人と別れろ〉

「……っ!」

その瞬間、全身にひやりと冷たいものが走った。

(どうして、私のロッカーを…!?)

咄嗟に浮かんだのは菜々美の名前。しかし、確信は持てない。

ロッカーは鍵付きで、普段は鍵をデスクにしまっている。もちろん同僚ならそれを知っているかもしれないが、事務員が簡単に侵入できる場所ではない。

一体どうやって開けたのか。その疑問が、動揺と恐怖をさらに強めた。

そもそも、理人との交際はすでに院内で広まっている。恨みを抱くのは菜々美だけとは限らない。

他にも理人を慕う女性がいるとすれば、これはその中の一人の仕業かもしれない。そう考えると、身震いが止まらなかった。

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