治療不可能な恋をした
その日一日、梨乃の胸のざわつきは収まらなかった。
不審な電話も相変わらず続き、着信履歴にはいくつもの知らない番号が並んでいる。そこに今朝のロッカーの件が加わったことで、恐怖と不安は静かに、しかし確実に心を蝕んでいく。
頭の中で、繰り返し紙片の文字が浮かぶ。
〈理人と別れろ〉
どうやって、誰が、日常を脅かしてくるのか。考えれば考えるほど、息苦しさが増していく。
(怖い……)
その思いが強くなり、仕事を終えた梨乃の足は、自然と足は理人のいる心臓外科の医局へ向かっていた。
歩きながらも、手は無意識にスマートフォンを握りしめる。
院内の長い廊下を進むたびに、心臓の奥で重くざわつく不安が押し寄せる。すれ違う医師や看護師の視線さえ、全て自分を見張っているようで、どこか恐ろしく感じられた。
(理人……助けて……)
わずかに震える手で医局のドアを引き、「失礼します」と消えそうな声をかける。
医局に足を踏み入れた瞬間、理人が顔を上げ、驚きの表情を見せる。
「……仁科先生?」
その声に、一瞬だけ胸が安堵する。しかし視線を巡らせると、周囲の医師や看護師たちがこちらを見つめている。
その全てが、今の梨乃には敵のように思え、恐怖が全身を襲った。
「逢坂先生……」
その声色に理人はすぐに状況を察したように、梨乃を導くように廊下に出た。
人気の少ない場所まで歩きそこで立ち止まると、梨乃は迷わず彼に抱きついた。