治療不可能な恋をした

理人の家に着くころには、梨乃の震えはわずかに収まり始めていた。

玄関をくぐった瞬間、強く抱きしめられる。温かな体温に包まれているうちに、胸の奥を締めつけていた恐怖が少しずつほどけていく。

「梨乃。もう怖がらなくていい。俺がいる、もう大丈夫だ」

「……っ」

低く力強い言葉が、冷え切った心にじんわりと染み渡る。

──この人だけは信じられる。その確信が、心細さに押し潰されそうだった心を支えてくれた。

「……ここ数日、ずっと無言電話が続いてて……」

言葉を探すように、ぽつぽつと話し始める。

「気にしないようにしてたんだけど……今日、ロッカーに……」

「荒らされたのか」

理人の低い声に、梨乃は震える指でポケットから一枚の紙片を取り出し、そっと差し出した。理人はそれを受け取り、目を走らせるにつれて表情が険しさを増していく。

「清野さんかもしれないって思った……でも、理人を好きな人は他にもいて……誰かに恨まれてるんじゃないかって……」

声は次第に震え、ぽろぽろと涙が頬を伝う。理人の胸に顔を埋めながら、不安と恐怖を言葉に変えていくたび、涙は堰を切ったようにあふれ続けた。

「……ふざけんな」

低く絞り出した声に、梨乃ははっと顔を上げる。けれど目に映ったのは、冷たい怒りと同時に、誰よりも梨乃を守ろうとする強い意思だった。
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