治療不可能な恋をした
梨乃はびくりと肩を震わせ、反射的に自分のスマホを探した。だが鳴っているのは梨乃のものではなく、理人のスマホだった。
理人は険しい表情でディスプレイを覗き込む。表示されたのは見知らぬ番号。しばし迷うように眉を寄せたあと、ためらいなく応答ボタンを押し、耳に当てる。
次の瞬間、受話口から弾むような女の声が飛び込んできた。
『理人さん!』
明るく、どこか馴れ馴れしいその声。理人も梨乃も同時に息を呑む。──菜々美だ。
梨乃の胸がひやりと凍りついた瞬間、理人の声が鋭く切り返した。
「……誰だ」
氷のような、低い声。感情を抑え込んでいるはずなのに、冷たさが滲み出る。
『え、やだ……菜々美です。茉里ちゃんの友達の。忘れちゃったんですか?』
電話越しに聞こえる声は、以前自分を睨んでいたあの時の表情からは想像もつかないほど甘えた声色だった。その声音の差に、ぞくりと身震いする。
『お久しぶりです。聞いてください!私、理人さんの病院で働くことになったんです』
わざとらしいほどに喜びを隠しきれない声。けれど理人の返答は、氷のようにに冷ややかだった。
「……なぜお前が、この番号を知ってる」
一拍の間。菜々美は小さく笑い、悪びれることなく続けた。
『そんなの……ちょっと周りに聞けば分かることですから。そんなことより、また会えるなんて嬉しいです!』
「……」
『今は医療事務として総合受付にいるので、今度ぜひ理人さんも来てくださいね!』