治療不可能な恋をした
理人は不快さを隠すことなく目を細め、短く息を吐いた。
「勝手に俺の情報を詮索するな。連絡するな。職場でも、プライベートでも関わる気はない」
『そ、そんな冷たいこと言わないでくださいよ。だって私、ずっと理人さんのことが好きで、忘れられなくて……』
「迷惑だ。二度とかけてくるな」
相手の言葉を鋭く遮り、冷徹に言い放つ。通話を切る指先には一切の迷いがなかった。
室内に静けさが戻る。理人は最後まで毅然とした態度を崩さず、彼女を拒絶した。その姿を見て、梨乃は小さく息をつく。
心臓はまだ早鐘のように打っていたが、恐怖ではない。目の前の彼が脅威を遮ってくれたという確信が、胸に広がった。
「……あの女に、俺の番号を教える奴なんて誰もいない。それを知っているということは、おそらく同じ手口で梨乃の番号を調べて悪用したのもあいつだ」
そう言って顔を向けた理人の目には、迷いのない強い決意が刻まれていた。
「……心配するな。俺が全部、片を付ける」
梨乃はうなずき、静かに抱き寄せられる。あたたかな腕の中で梨乃は少しずつ肩の力を抜き、安心感に包まれた。
「……うん……」
震える声に、理人は何も言わずぎゅっと抱き返す。外の喧騒も、電話の脅威も、今はずっと遠く感じられた。
額を寄せて目を閉じる梨乃の体に、理人の確かな存在が温かく伝わる。──少なくとも、彼のそばだけは安心できる、そう思えた。