治療不可能な恋をした

「……わかりました。少しこちらで確認させてください」

梨乃は落ち着いた声を保ちながら答えた。だが、心の奥ではざわめきが止まらない。紹介状に不備があるのは偶然なのか、それとも──。

梨乃は電子カルテを素早く開き、院内で取り寄せられる過去の検査記録を探した。だが、初診のため蓄積はほとんどなく、ほぼ頼れる資料はなかった。紹介状が頼りになるはずの状況で、それが欠けているのは致命的だった。

母親は不安げに口を開く。

「……あの……先生、大丈夫ですか? ちゃんと診ていただけますか……?」

梨乃は一瞬、視線を母親に向けた。明らかに心配そうな顔で、子供を抱き寄せている。

けれど、自分までこの混乱に飲まれるわけにはいかない。この子の安全は、今の判断にかかっている。心の中でそう繰り返し、肩を軽く正した。

「大丈夫です。まずはできる範囲で安全に対応します」

梨乃は手元でPCに向かうそぶりを見せつつ、インカムでスタッフに指示を送る。

「前医に至急連絡して、不足分をFAXで送ってもらえるよう手配してください」

同時にスタッフに目配せし、上長への報告も密かに依頼する。

スタッフが慌ただしく動き出す間、梨乃は母親の言葉から必要最低限の情報を聞き出すことに集中した。

「これまでの注射単位はどのくらいでしたか?」

「正直、全部は覚えていないんですけど……低血糖のときは、よく手や体が震えて……」
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