治療不可能な恋をした
外来を終えた梨乃は、診察室を後にして執務室へ向かった。
長い朝の診療を終え、疲労が胸にのしかかる。それでも心の奥にはまだ、張りつめた感覚が残っていた。あの後は幸いにも大きな問題は起こらず、無事に終えることができた。
深く息を吸い、執務室の扉の前で一瞬だけ足を止める。ドアの向こうでどんな話が待っているのか──それを思うだけで背筋が固くなる。
「失礼します……」
小さな声でノックし、返事を待ってから静かにドアを開けた。室内の視線が一斉にこちらへ向いたその瞬間、梨乃の胸にひやりとしたものが走る。
そこには、話があると告げた科長と医局長。そして──理人の姿もあった。
(……なんで、理人まで……?)
思わず心の中でつぶやく。理人が同席している理由を考えた瞬間、昨夜の出来事が脳裏をよぎり、梨乃の胸に嫌な予感が膨らんだ。彼の存在は、自然と“菜々美”の名を浮かび上がらせる。
(まさか……)
梨乃の思考を遮るように科長が口を開き、低く落ち着いた声が室内に響く。
「説明に入る前に、今回の件を整理させてくれ」
テーブルの上には数枚の資料が並べられている。
科長は視線を一度梨乃と理人に配ってから、静かに切り出した。