治療不可能な恋をした
最初に取り上げられたのは、つい先ほど外来で明らかになった紹介状の不備と、それに伴う重要書類の一部紛失の件。続けて、梨乃が朝、医長に報告していたロッカーの被害と、電話番号漏洩の示唆についても話題に上がった。
「仁科さんが今朝医局長に報告した件についてだが、ロッカーの被害と、電話番号含む個人情報の漏洩疑惑。これらについて、すでに施設管理部とシステム部から報告を受けている」
医長が補足するように言葉を続けた。
「ロッカー室そのものには監視カメラは設置されていなかったが、その前後の廊下に映っていた映像を確認したところ、不審な人物の出入りが確認された。さらにシステム部の調査で、その人物が本来の業務では閲覧する必要のない個人情報にアクセスしていたこともわかった。映像とアクセス記録を照合した結果、業務外の時間帯や内容にまで手を伸ばしていたことが明らかになり、特定の職員への疑いが強まっている」
梨乃の胸が小さく跳ねる。
「その……特定の職員というのは……」
震える声で呟く梨乃の問いかけに、理人が低く落ち着いた声で答えた。
「清野菜々美だ。……仁科の個人情報だけじゃなく、俺の個人情報も不正に閲覧されてたそうだ」
室内に重い沈黙が落ちる。梨乃は息を呑み、思わず理人を見た。
科長は一拍置いてから、机上の書類を軽く叩く。
「そして、つい先ほど外来で問題となった紹介状の不備についてだ。前医からは本来、インスリン調整に必要な補足資料が同封されていたはずだが、担当医である仁科さんの手元には届かなかった。前医も間違いなく同封したと確認は取れている」
「それじゃあ、まさか……」
「君の想像の通りだ。総合受付の職員に確認したところ、その紹介状を患者から受け取り処理したのは、清野菜々美という職員に間違いないそうだ」