治療不可能な恋をした
菜々美が膝から崩れ落ちても、理人は振り返ることなく梨乃を抱き寄せた。
「もう行くぞ」
低く抑えた声に、梨乃の胸は自然と落ち着きを取り戻す。
「うん……」
背を向ける直前の一瞬、菜々美の存在はそこにあるが、もはや恐怖ではなく、ただの異物として横たわっているだけだった。
理人はすぐに携帯を取り出し、警察へ連絡を入れる。冷静で無駄のない指先の動きに、梨乃は安心を覚えながらも、菜々美の膝をついた姿に視線を向けずにはいられなかった。
(同情はできない。でも……)
胸の奥で、どこか静かな哀れみがわずかに揺れる。菜々美は涙ひとつ流さず、肩を落として打ちひしがれたままそこに座していた。口をきく力も失い、理人への過剰な執着と自己顕示欲に彩られた恋の終わりを象徴しているかのようだった。
(きちんと自分の罪を認めて、反省してほしい)
そう思った瞬間、止まりかけていた足を促すように、理人が梨乃の腰を引いた。
守られている──その確かな感覚が、夜の静寂の中で二人を包み込み、菜々美の悲惨な最後が、より深くその場に刻まれる。
感情の行き場を失ったままひたすら打ちひしがれるその姿は、同情の余地もなく、ひとつの恋の終焉として、あまりに哀れで痛々しいものだった。