治療不可能な恋をした

笑いながら交わされる言葉の中に、どこか熱っぽい憧れと、軽い諦めが混じっているのが分かる。

梨乃は、引き出しから目的の物品を手に取りながら、声の届かないふりをして背を向けた。

(──やっぱり、そういう人なんだ)

モテる、優しい、誰にでも気さく。それが彼の魅力であり、同時に、決して自分にだけ向けられたものではないという現実でもある。

(遊び人、か……)

当たり前だ。そうじゃなければ、自分のような冴えない女にまで声がかかるはずがない。

(私は、ただの同僚。それ以外、あり得ない)

昨夜の出来事が、ますます遠くに感じた。

彼の言動の裏に何かがあったとしても──きっと、理人は今までもこれからも、特定の誰かに縛られる人じゃない。

(期待なんて、してない。最初から)

ずっとそう言い聞かせるはずなのに、胸の奥が静かに、けれど確かに痛んだ。

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