治療不可能な恋をした
土産物屋を出たあとも、二人で並んで古寺の参道を歩いた。石畳には落ち葉が散り敷かれ、木々の影が淡く揺れている。
「だいぶ日が陰ってきたね」
「だな」
「日も落ちるの早くなってきたし、朝晩の気温差が大きくなってきたから体調管理気をつけないとね」
「そうなると……これから小児科の方は大変そうだな」
「うん。色んな感染症増えるし、インフルエンザの予防接種」
そんな他愛のない会話を交わしながら歩き、梨乃は何気なく声をかけた。
「心外の方はどう?今回の旅行で休んだ分、やっぱり忙しくなっちゃう?」
問いかけに、理人はわずかに間を置いてから「ああ……」と曖昧に返す。
「うん。まあ、ぼちぼちだろうな」
遅れて付け足した声は、どこか上の空に響いていた。
梨乃は思わず首をかしげる。
「……理人?」
「ん?なに?」
振り返った理人は口元を緩め、穏やかな笑みを浮かべている。その自然な笑顔は、さっきの間など気のせいかと思ってしまうほどだった。
「……ううん。呼んだだけ」
「なんだそれ」
小さく笑う理人に歩みを合わせながらも、梨乃の胸にはふとしたもやが広がっていく。
問いかければ答えてくれる。けれど返事はいつもより一拍遅く、言葉の端々にどこか心ここにあらずな気配が残るのだ。
それは、いつもの理人らしくない。そう思うほどに、違和感はじわじわと大きくなっていった。
やがて参道を抜けると、川沿いの並木道へと続いた。水面をかすめる風が頬に触れ、木々の赤や黄色がせせらぎに映えている。