治療不可能な恋をした
けれど、日が傾くにつれて長く伸びる影の中、理人の様子はますます落ち着かなく見えた。歩幅はときおり乱れ、視線もどこか宙を漂うようで、梨乃の胸の中で違和感がじわじわと大きくなっていく。
やがて、道の奥へ進むほど人通りがまばらになり、周囲の空気がひときわ静まる。
梨乃はふと足を止め、小さな並木道の影の中で真剣な眼差しを向けて理人を覗き込んだ。
「……理人、やっぱり様子がおかしいよ」
呼びかけに、理人ははっとしたように目を瞬かせ、現実に引き戻されたみたいに顔を向けた。
「え?」
「無理してるんじゃない?そろそろホテルに戻ろう?」
「え?いや、そんな無理なんか……」
「だって、さっきからぼんやりしてることが多いよ。気分が悪いんじゃない?無理せず部屋に戻ろう」
「いや、だから……」
まだ否定しようとする理人に、梨乃は自分のために我慢をしているのではないかと心配でたまらず、一歩踏み込む。
「ね、そうしよう?疲れてるなら夕食のレストランも無理せずキャンセルして……」
「──っ、それはダメだ!」
急に焦ったように声を上げる理人に、梨乃は拍子抜けした。
「……どうして?もう十分楽しんだし、旅行は明日も残ってるんだから、無理しなくても……」
心配を隠せず追い討ちのように言う梨乃を前に、理人は肩を落とし、頭を掻きながら言葉を探す。
口を開いては飲み込み、また開いては止める。言葉が喉の奥でつかえては、何度も深く息を整える。その動作はしばらく続き、見ている梨乃の胸にも緊張が伝わった。