治療不可能な恋をした
やがて、観念したように理人は小さく声を漏らした。
「……ほんっと、医者ってやつは空気読めねぇな……」
「え?」
拍子抜けした梨乃の問いかけに、理人は深く大きなため息を漏らす。
そして、観念したようにポケットへ手を伸ばし、そっと小さなケースを取り出した。手の中で軽く握りしめ、呼吸を整えながら、目の前の梨乃に差し出す。
ケースを握る指先には、わずかに震えがある。下を向き、息を整えながらも、理人の瞳には強い決意が灯っていた。
「……本当は、ホテルで食事したあと、ラウンジに誘ってそこで言うつもりだったんだよ」
声はわずかに震えていて、その緊張した面持ちから、何を言おうとしているのかが自然と伝わる。
梨乃の胸は、言葉の前にすでに激しく高鳴っていた。鼓動は耳にまで届くようで、心臓がバクバクと暴れる。胸の奥がじんと熱く、期待と緊張で全身がざわつく。
「でも……もういいや。下手に隠して梨乃を不安にさせるくらいなら、今言う」
顔を上げた理人の瞳は真剣そのもので、揺るぎない決意が宿っていた。
「この場所も悪くないしな」と、軽口のように笑ったその瞬間も、表情の芯には変わらぬ真剣さがあった。
理人はゆっくりとケースの蓋を開く。中には、淡い光を反射する指輪が静かに収まっていた。
小さなダイヤが朝露のようにきらめき、指輪の揺れる輝きが理人の緊張をより際立たせる。ケースの内側には、クッションが指輪を優しく支えていた。
「……梨乃、俺と結婚してほしい」