治療不可能な恋をした
夜も更け、家の中は仕事の余韻と静けさに包まれていた。
テーブルの上にはノートPCやスライド資料、参考書が無造作に広がっている。仕事の疲れが積もった空気の中、梨乃は学会準備のために黙々とスーツケースに荷物をまとめ、書類や資料を手際よく詰め込んでいく。
ひと段落ついたとき、ふと時計に目をやった。
「もう、こんな時間か……」
小さくつぶやくと、玄関の扉が静かに開く音が聞こえ、すぐに足音がリビングへと近づいた。理人の声が響く。
「ただいま」
梨乃は顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべて答える。
「おかえり、理人」
その声に理人はふっと笑みを返すと、ためらうことなく梨乃に歩み寄り、そっと抱きしめた。自然に身体を預けると、理人の温もりがじんわりと伝わってくる。
「お疲れ様」とささやくと、理人が軽く梨乃の唇にキスを落とした。
その短い瞬間に、日中の忙しさや疲れが、ふっと消えていくような安心感が梨乃を包む。
「夕食あるよ。食べる?」
「作ってくれたのか?ありがとな」
「お義母さんが新しい時短レシピ送ってくれたから、早速作ってみたの」
「母さんが?梨乃、迷惑だったら言えよ。忙しいのに家事を無理させるわけには……」
「全然だよ。そんなに頻繁でもないし、むしろほんとに簡単なのに美味しいからすごく助かってる」