治療不可能な恋をした
理人は梨乃の姿を見つけると、少しだけ足を緩め、そのまままっすぐに歩み寄ってくる。
「お前も外来?俺は今から戻るとこなんだけど……昼飯、まだなら一緒にどう?」
ごく自然な口調だった。職場の廊下で、何気ない調子で交わされるただの会話。なのに──なぜだろう、胸の奥がまたひりつく。
「私はもう、済ませました」
たったそれだけの返事なのに、自分でも分かるくらい語気が鋭くなっていた。
その瞬間、理人が一瞬だけ目を細めたのが分かる。
「そっか。残念」
彼は深追いするでもなく、あっさりと笑ってみせる。その気のなさそうな態度が、かえって胸をざわつかせた。
先ほど耳にした写真や噂も、今朝ような女性からの分かりやすいアプローチも──きっと理人にとっては些細なこと。
その上で誰に何を言われても、どんな視線を向けられても、彼は気にも留めない。そんなふうに見えるからこそ、余計に苛立ちが募った。
「……私なんか誘わなくても、一緒に行ってくれる人なんて、たくさんいるでしょう」
口にした瞬間、梨乃は自分の声に棘が混じっていたことに気づく。