治療不可能な恋をした
話の余韻が続く中、梨乃は静かにトレイの端に手を添える。
「……ごちそうさまでした。すみません、午後の準備があるので、先に戻りますね」
そう言って席を立つと、「お疲れさまです」「午後もよろしく〜」といった声が返ってきた。
梨乃は小さく笑って応じながら、返却口にトレイを戻す。その間もずっと、胸の奥に何かが引っかかっている感じがしていた。
(……なに、これ)
理由ははっきりしない。ただ、あの投稿の写真や、同僚たちの何気ない会話のひとつひとつが、妙に胸の奥に残っていた。
(別に、私には関係ないのに)
理人が誰とどこにいようが、自分には関係ない。それは分かっている。わかっているはずなのに、胸の奥でさざ波のようにざわつく感情に、言葉が追いつかなかった。
そのまま廊下を曲がり、医局へ向かおうとしたそのとき──
「お、仁科じゃん」
呼び止められて、はっと顔を上げる。
白衣の裾を揺らして廊下の向こうから姿を現したのは、理人だった。
手には外来で使うファイルを数枚抱えていて、どこか足早なその様子から、ちょうど午前の診察を終えて戻るところなのだと分かった。
わずかに疲労の滲む足取りとは裏腹に、表情はいつものように飄々としている。