治療不可能な恋をした
言うつもりじゃなかった。
なのに、勝手に言葉が滑り出ていた。
理人は数秒、何も言わなかった。けれどふっと目を細めたその表情には、いつもの飄々とした雰囲気とは違う何かがあった。
「……なにそれ、嫉妬?」
低く、だが冗談とも本気とも取れる絶妙な音その響きに、梨乃の心臓がどくんと跳ねた。
「は!?ち、違……っ」
慌てて否定の言葉を返したそのときだった。
すっと理人の手が伸びる。反論しようとした梨乃の腕を、軽く、けれど確かな力で掴んだ。
「……そんなに気になるなら、どうしてあんなこと言ったんだよ」
その声はただの皮肉でも、からかいでもなかった。抑えきれない何かが、言葉の奥に滲んでいた。
顔を上げると、至近距離にある理人の表情が視界に飛び込んでくる。普段の飄々とした笑みは、どこにもなかった。
眉間にはわずかな皺。口元は引き結ばれ、瞳の奥には焦りとも苛立ちともつかない色が灯っている。
──まるで、自分の言葉に本気で傷ついた人のようだった。
「……あの日をなかったことにしたいって。そう言って距離を取ろうとしたのはお前の方だろ。なのに、なんでそっちがキレてんだよ」
「……っ」
喉がつかえて、言葉が出ない。
そんなふうに感情をあらわにする彼を、初めて見た。誰にでも優しくて、どんなことも軽く流してしまう人だと思っていたのに。